映画や小説の題材にも! ストックホルム症候群における脳の不思議
脳の働きやメカニズムのなかでも不思議なのがストックホルム症候群。私たちの感情や本能について、まだまだわからないことばかりです。ストックホルム症候群という言葉はスウェーデンで実際に起きた事件からつけられました。人間の脳と心理の不思議を少しだけ紹介します。
みんな知ってる? ストックホルム症候群の雑学
ストックホルム症候群とは
ストックホルム症候群とは、精神医学用語で”犯罪被害者が、その加害者と長時間過ごすことで好意を抱いてしまう現象”のことを言います。
誘拐された人質が誘拐犯のことを好きになったり、同情心を抱いてしまう心理が該当します。
ストックホルム症候群が生まれた事件
ストックホルム症候群という言葉が生まれるきっかけになったのは1973年にスウェーデンの首都ストックホルムでおきた銀行強盗事件。スウェーデンで初めて生中継されたこの事件は国民の心に強く残りました。
何より衝撃だったのは、人質にされている女性行員との電話です。女性行員は電話で犯人に恐怖を感じていないこと、むしろ警察に不信感を持っていることを話しました。
さらに犯人は投降後の証言で、人質が犯人をかばったことを話しています。通常であれば人質は警察からの救助を求め、犯人には恐怖を覚えるものです。しかし、この事件において人質の感情はそう簡単ではありません。
日本で起きた類似の事件
日本での類似の事件としては、1965年に起きた女子高生の誘拐事件があります。これは当時40歳の男性が17歳の女子高生を脅して誘拐し、自宅のアパートに監禁した事件。約半年間に渡って、二人は同棲生活を送っています。
目撃者の届出によって女性高生は発見、保護されました。しかし後の供述で、女子高生は犯人と口裏を合わせた証言をします。少女が逃げられる環境だったにもかかわらず同棲を続けたことなどから、その事件は話題になりました。
創作の中のストックホルム症候群
ストックホルム症候群は映画や文学の中でもよく題材に取り上げられます。
有名なシリーズの中では007シリーズやゴルゴ13。さらに上記の事件を題材にした小説『女子高校生誘拐飼育事件』を原作に『完全なる飼育』という映画も作られています。
この映画はリメイクを繰り返し、第8作まで作られています。ストックホルム症候群という状態が、それだけ興味深いテーマであることがうかがわれます。
ストックホルム症候群の心理
ストックホルム症候群になる過程
ストックホルム症候群に陥ってしまう被害者について調査し、ストックホルム症候群という名称を作ったフランク・オッシュバーグ博士の報告によると、ストックホルム症候群は極限状態や非日常的空間だからこそ起こる現象だということです。
事件が起きたとき、人質は強い恐怖を抱きます。その恐怖感の中で食べ物を与えたり、指示や会話をしたりする犯人に思慕の気持ちが芽生えるのです。ともに非日常の空間にいる犯人と人質には、ある種の共感も生まれます。
逆に警察はこの状況を壊す存在。警察が介入することで状況が変化して、自分に危険が及ぶかもしれません。よって警察に敵意を持つのです。
これがストックホルム症候群になる過程です。
ストックホルム症候群は脳の選択
ストックホルム症候群という名前から、一種の病気であるような印象があるかもしれません。しかしストックホルム症候群とは、脳における合理的な錯覚とも考えられます。
死の恐怖にさらされた場合、脳は当然生き残るための戦略をとります。生き残るための戦略として、その場の支配者である犯人に感情を寄せるのです。
ストックホルム症候群とは症候群という名前ではありますが、脳による生存戦略だといえます。